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銀誕小話
2007.10.10 Wed 20:56
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銀さんお誕生日小話を一つ。
銀時の誕生日会が万事屋の階下にあるスナックお登勢で開かれた。さまざまな人間が立ち替わり入れ替わりスナックを訪れて、差し入れを置いていく。タダ酒が飲めると聞きつけて来る輩もいたが、皆銀時を慕っているのが見て取れる。銀時が大勢に囲まれて憎まれ口を叩いたり、笑いあったりするその様子を、店の隅に座って土方は見ていた。自分の――こういう言い方は甚だ不本意ではあるが――恋人が、人望に溢れていることに悪い気はしない。それどころか、誇らしい気分になる。銀時はいい加減なところもあるが、なんだかんだでキッチリ義を通す侠気に富んでいる。そういうところが、人々の信頼を得るのかもしれない。 初め、土方は誕生日会の出席を辞退した。折角いろいろな人が集まるのに、警察の自分がいれば台無しになると気を使ったのだ。すると神楽と新八は烈火の如く起こった。銀時の一番大切な人は土方なのだから、土方がいないと話にならないというのだ。そして更に神楽は、『自分を卑下するのは止めるヨロシ。銀ちゃんの方がトシちゃんに釣り合わないアルよ』と嬉しいことを言ってくれた。土方は子供たちの正直な言葉に感動した。幕臣として幕府に仕えて、謀略や差別に晒されるうちに、他人の言葉を素直に受け取れなくなっていた。けれど、子どもたちは素直で正直だ。土方は出席すると二人に約束した。 程よく酔いが回ってきて、土方は夜風にあたろうと外に出た。夜風に乗って、どこからともなく金木犀の香が薫ってくる。土方はスナックの裏路地に入って煙草を燻らした。 「おーい、十四郎」 裏路地にひょっこり銀時が現れた。 「急にいなくなったから帰ったのかと思った」 「おい、主役がいなくていいのかよ?」 「あー、あいつら誕生日にかこつけて呑みたいだけだから。全然祝う気ないから」 それでも銀時はうれしそうで、土方も頬を弛めた。壁を隔てて、和気あいあいとした喧噪が聞こえてくる。 「来てくれて、ありがとな」 「…別に」 銀時はなぜ、こうもすっと感謝の言葉が出てくるのだろう。土方はいつも羨ましく思う。銀時には利己心も虚栄心もない。身の丈に合った生き方を知っていた。 「あのさ、お前にだけ言うけど」 「何?」 「俺、本当の誕生日は知らねぇんだ」 土方ははっと銀時の方を見た。銀時は無理に笑顔を取り繕った。 「孤児だったからなぁ。十月十日は、先生の塾に来た日なんだ。だから、本当の誕生日は知らない」 土方は吸いかけの煙草を地面に落した。僅かに先が赤く燃えている。 「…そんな、天人が来る前は誕生日なんて風習はなかったじゃねぇか。誕生日なんて、」 そこまで言いかけて土方は口を噤んだ。何を言っても、銀時の慰めにはならないと思った。 俺は、銀時が今一番欲しい言葉をあげることはできない。 歯がゆかった。 銀時は土方の肩を掴んで、腕の中に閉じ込めた。左頬を土方の右頬に擦りつける。 土方は黙って、ふわふわの髪の毛を梳く。 小さな少年が、自分の誕生日も、自分の親の顔すらも知らないでいるその悲しさが、土方には伝わってきた。 「…じゃ、毎日祝ってやる」 土方が突飛もないことを言い出したので驚いたのか、銀時は土方の顔を覗き込む。 「毎日祝ってりゃ、いつかは本当の誕生日に当たるだろ」 頭の悪い理屈で笑われるだろうか、と土方は身構えた。ぷ、と銀時は噴き出す。 「あっはっは!!」 「あ、頭悪くて悪かったなっ」 「違うって、そんないい方法があったのかと思って。最高だよ、俺の十四郎は!」 げらげら腹を抱えて笑う銀時に、土方もつられて笑う。 銀時にはずっと笑っていてほしい。 その為には、俺はなんだってできるんだ。 銀時は土方の腰を寄せる。土方は目を瞑った。銀時の唇が土方のそれに被さる。土方はぎゅっと、銀時の着物を掴んだ。 ――君を決して、離さない。 |
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